序、プラトンの『法律』について

クノッソス宮殿遺跡 北側入り口、柱廊の玄関 
クノッソス宮殿遺跡
 『法律』は、プラトンの対話篇の最後の大作で、ソクラテスが登場しない実質上唯一の作品です(弟子の作品とされる『エピノミス(法律補遺)』を除き)。通常はソクラテスが担う対話回しの役は、「アテナイからの客人」が務めています。

 一説にプラトンは、『法律』を書いている最中に死んだと言われ、ローマ時代の哲学研究者ディオゲネス・ラエルティオスは、「ある人たちの言うところによると、(晩年の弟子の)ピリッポスが、まだ蠟板の上にあった『法律』(の原稿)を書き写したとのことである」(『ギリシア哲学者列伝(上)』(加来彰俊訳、岩波文庫、第三巻37、p.277)と、伝えています。ちなみに、蠟板はミツバチの巣から採れる蜜蠟を固めて板状にしたもので、メモや下書きに使われていました。この下書きを、パピルスに書き写したものが当時の書籍です。
   玉座の間に描かれたグリフィン(鷲の上半身とライオンの下半身をもつ伝説上の動物)の絵

玉座の間に描かれたグリフィン

 対話の舞台はクレタ島。地中海のエーゲ海南に浮かぶ、ギリシア最大の島です。ヨーロッパ最古のミノア文明(~紀元前2000年)が栄えたところとして知られ、首都イクラリオン郊外にクノッソス宮殿で知られる遺跡が残っています。
 ミノア文明は、エジプトにまで広がる広大な交易圏に支えられて長い間繁栄を誇って来ました。ホメロスが伝えるところによると、ゼウスから教育を受けたクノッソスの王ミノスは、酒食時の礼儀などを定めた「法」(ノモスνόμος)を作ったといいます(プラトン『ミノス』319B-320B)。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/18/Crete_integrated_map-en.svg/400px-Crete_integrated_map-en.svg.png(by Wikipedia)
 クレタ政府に頼まれて島のどこかに植民都市を造る計画をもつクレタ人クレイニアスとスパルタの人メガロスを相手に、アテナイからの客が中心となってその具体的な国造りの絵図を描き出していくのが、プラトンの『法律』の基本的な骨格になっています。クレタ島中央の南部に想定されている候補地には、かつてマグネシアという国があったとされ、その場所に新マグネシアを現実に造るつもりで、入植者の人数から官職の制度、そしてもっとも大事な「法」を決めていくという壮大な構想が展開されていきます。

 「法律」と訳される「ノモスνόμος」は、むしろ慣習的な「決まり」が原意に近い言葉ですが、現代における「法律」の原型を知ることができるでしょう。まずはじっくりと、『法律』を読んでいくことにいたしましょう。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fa/Crete_location_map.png
(by Wikipedia)