第八回 哲学カフェ「バーバパパと人力エネルギー」

 本日は、シーカヤック冒険家・鈴木克章さんをお迎えしての開催です。ホームページ ひるまのながれぼしhttp://hirumanonagareboshi.hamazo.tv/
 をご参照願いたいのですが、シーカヤックで日本列島を一周した一大冒険家です。

鈴木克章さん1鈴木克章さん2

 ご本人のお話の前に、前座としていつものように少しだけお時間をいただきます。

 子どもたちにとって永遠のヒーローであるバーバパパの物語に、こんな話があります(『バーバパパのプレゼント』アネット=チゾン/タラス・チゾンさく、やましたはるお やく)。クリスマスイヴのことです。バーバパパ一家の子どもバーバズーに、大きなプレゼントが届きました。開けてみると、ペリカンなど「みなみの くにの とりたち」がたくさん入っていました。バーバズーが飼っているオオハシくんのお友達としてピッタリなので、バーバズーは大喜びです。

 ところが雪が積もっているバーバパパのところでは、みなみのくにの鳥たちは寒くて寒くて仕方がありません。すむアフリカたくさんの動物のお友だちがバーバパパのところにやってきました。ところが、冬になるとアフリカの動物たちは寒くて仕方がありません。バーバパパ一家は森の木を切って暖炉を暖めましたが、森の動物たちがプンプンです。バーバピカリが水の力と風の力、そしておひさまの力で電気を生むシステムを作りましたが、川が凍ったり、風のない日やくもりの日には、発電機をまわすことができません。

 そこで、「さむくても、くもっていて、かぜの ない ひ」には「じぶんたちの ちからで でんきを おこす ことに したのです!」。こうしてみんなで自転車をこいで、電気をおこし、みなみのくにの鳥たちを暖めてあげた、というわけです。自分たちも温かくなるし、一石二鳥ですね。

 私たちが普通に乗っている自転車の発電能力は、そのままではせいぜい数10Wなので、バーバパパの絵にあるような電気ストーブを発熱する力はないようです。しかし、これは人間のこぐ力が足りないのではなく、その力を電気に変える変換装置が十分ではないためです。

 高知工科大学エネルギー科学教育研究会では、風力発電用の「コアレス発電機」を使って、瞬間最大で600W、平均で200~300Wを普通に発電する能力が私たちにあることを確かめました(写真左側 人力発電1号機。同右の改良3号機は100Vに対応)。

高知工科大学エネルギー科学教育研究会HP
 http://www.kochi-tech.ac.jp/energy/manpower/manpower.html

 パリで、トゥール・ド・フランスの自転車列を目の前に見る機会がありましたが、そのあまりのスピードに圧倒されたものです。彼らプロの自転車レーサーが、どの程度の発電能力を示すか興味深いですね。

 バブル経済が始まる直前の1985年当時、1世帯当たりの電力消費量は一日平均7,090Wh(ワット時)で、24時間で割った平均のワット数は300Wになります。高知工科大学の開発した発電機を使えば、一家で順番に自転車をこぎ続ければ、家庭の全電力が賄いきれる計算になります。しかし25年後の2009年には一日平均の電力消費量は約3割増しの9,450Wにまで上昇し、平均ワット数はおよそ400Wにまでふくれあがり、人力による平均発電能力を超えてしまいました。その理由は、エアコン、電気カーペット、電子レンジ、暖房便座など多種・多彩な電気機器が相次いで普及したことにあります。

 「だいず先生」の愛称をもつ『人は100ワットで生きられる』(大和書房)の著者・高野雅夫名古屋大学大学院環境学研究科教授は、同著のなかで、実際に「100ワット生活」を実践している位田達彦ご夫妻を紹介しています。

 豊田市旭地区の山間部集落で古民家を借り、夫婦で修繕し、畳職人と農業で暮らしを立てる子ども一人の三人暮らし。自宅にある電気機器は、照明三つに、冷蔵庫、洗濯機、ノートパソコン、それだけだといいます。熱源は、お風呂は太陽熱温水器、足りない分は薪で焚き、冬は薪ストーブで暖をとる、といった次第だそうです。一日あたりの電力消費量は平均で2,310W、単位時間あたりの平均ワットは96Wになります。高知工科大学の人力自転車を持ち込めば、位田一家は誰かが常にその自転車をこいでいれば、使う電気は賄えるという計算になります。それでは仕事になりませんが、バーバパパ的生活が現実化する可能性が見えるような気がします。

 お二人のことは、豊田市空家情報バンクの利用者の声に紹介されています。
http://www.city.toyota.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/684/01.pdf

 シーカヤックの鈴木さんは、果たしてどの程度の平均出力で日本を一周したのか、興味はつきません。お話の中身はもちろんご自由ですが、バーバパパ的人力社会の可能性に夢を馳せてくれるとありがたく存じます。

 鈴木さんのお話は近く公開。お楽しみに。