1、「主流」と「古楽器派」:ハ長調41番《ジュピター》の饗宴

 『モーツァルトとの散歩』(高橋英郎訳、白水社)の著者アンリ・ゲオンは、交響曲41番《ジュピター》k.551の第四楽章を「現存する交響曲芸術の最高峰のひとつ」(p.280)と呼び、「ドレファミ」の四声のフーガが壮大に展開していくフィナーレのことを「《ジュピター》のフィナーレのあとでは、もはやいかなる現代の交響曲もこれ以上の魅力と力強さをもち得ないだろう」(p.283)と書いています。

 モーツァルトを崇敬し1926年に41番を自ら指揮したリヒャルト・シュトラウスは「私が聴いた音楽の中で最も偉大なものだ。終局のフィナーレを聞いたとき、私は天にいるかの思いがした」と述べたそうです。でマーラーが指揮者として振った曲は、モーツァルトのニ短調40番k.550とこの41番《ジュピター》だけだった、というのもうなずけようと言うものです。

 さて、まずはクリストファー・ホグウッド指揮による41番を聴いてもらいましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=tprPgo578OE&t=23s
 演奏は、18世紀から19世紀初頭の音楽を古楽器で演奏することを目的に、ホグウッド自身が1973年に創立したエンシェント室内管弦楽団(The Academy of Ancient Music)です。モーツァルトの時代には、観客はこのような「音」で41番が聴こえているはずだ、とするのが、ホグウッドの解釈です。皆さんはこれを「見」「聴き」して、どんなことを感じたでしょうか。そうですね、すぐ感じることは、演奏者の数がかなり少ないことです。

 フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、ヴァイオリン2部14(第Ⅰ8、第Ⅱ6)、ヴィオラ4、チェロ2、コントラバス2

 で、この編成はモーツァルト時代の標準に合わせたものです。

 では、次にザルツブルク音楽祭におけるリカルド・ムーティ指揮、ウイーン・フィルの演奏(1991年)を聴いてもらいましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=nTDuNrO-KNc
 管の編成は同じですが、弦楽器の数、とくにヴァイオリンの数が圧倒的に違います。これはおそらく、ヴァイオリン22(第Ⅰ12、第Ⅱ10)ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス4の弦楽器40人の編成です。

 音楽学者のニール・ザスロウは、ムーティを始めベームやカラヤンのような大編成の弦楽器群で演奏するスタイルを「主流」と呼び、ホグウッドやガーディナー、アーノンクールらを「古楽器派」と名づけています(「モーツァルトの音楽の演奏」『1991 国際モーツァルト・シンポジウム モーツァルト研究の現在』国立音楽大学、1993.10.20、p.154、p.164)。

 前者は「なめらかさ」、後者は「メリハリ」を特徴とするそうですが、あなたは、どちらのタイプの演奏が好きですか?