1、ヘロン「神殿扉の自動開閉装置」

 前期の「テクネーの哲学」では、自己組織化した体制や生命体が、自己言及して自己を再生産するシステムを形成していく「オートポエーシス」(自己創出)について、探究してきました。前期最終回でお一人が取り上げてくれた千葉県我孫子市の農産物生産販売システムの誕生は、あるひと(ないし、ひとたち)の「意識改革」が生み出したものです。この新しい意識を持つ人たちが地域に再生産され、それが継続する体制に発展すれば、この意識の生産物は「オートポイエーシス」システムへ移行することになります。
 
 この生成した新しい体制は、地元のひとたちにとってみれば、ひとつの「発明」ということになりませんか。なぜならそれは、いままで誰も考えたことがなかったことであり、人々の生活をある種「劇的」に変える可能性をもっているからです。
 
 さて、発明とはいうまでもなく「何かあたらしいもの、それまで存在しなかったものを生み出すこと」(ジャック・チャロナー『人類の歴史を変えた発明1001』ゆまに書房、2011.1、p.9)ですが、ジェームズ・オローリンの表現、「発明家は、芸術家と技術者の両方の資質を備え、他の人なら見過ごしてしまいそうなことに目をとめ、将来を見通し、現状をどう改善できるかを思い描くには創造的でなければならず、先見性も求められる」「驚くべき人々」(同書、p.7)であることは、実に言い得て妙ではないでしょうか。言って見れば発明家は、新しい「もの」や「こと」を創造するアーティストのようなものなのです。

 『人類の歴史を変えた発明1001』には、前期の「オチのポイエーシス」で扱ったSFに「人類を滅亡させる最終兵器」として登場した槍の発明が、紀元前40万年ごろだったことが書かれています(p.24)。メソポタミア南部の古代都市ウルクで見つかった絵文字によれば、車輪と車軸の発明は、そりと陶工の使うろくろがヒントになったことが描かれているといいます(p.57)。
 
 今回登場するアレクサンドリアの数学者にして技術者だったヘロンは、祭壇の火を調整することによって神殿の扉を開閉する自動装置を発明したことで知られていますが、かまを熱すると蒸気が噴出して球が回る蒸気機関の原型(アイオロスの球)や,落下させる水の力を利用した噴水、ホドメーター(距離測定装置)など、さまざまな自動機械を発明しています(板倉聖宣『機械の発明発見物語』国土社、1984.4、pp.15-22)。三角形の三つの辺の長さがわかっていれば、その面積を求めることのできるヘロンの公式も見出しています。
 
 この凄い人は、たぶん天動説のプトレマイオス(100-178?)より後の人だろうと推定されるだけで、生没年は謎に包まれています。