1、ワーグナーを織り込む

 今回お集まりの皆さんは、名だたるガウディ通とお見受けしています。中には、サグラダファミリアの現場で、主任彫刻家として彫刻群の作成に携わってるあの外尾悦郎氏と、直接お話をされるという幸運に恵まれた方もいらっしゃいます。単なるガウディ好きの一哲学徒がどこまで皆さんの心の中に新しいガウディの世界を現出させることができるかなんとも心もとないところですが、ガウディ関連人物たちをヨコ糸とする世界に、タテ糸として私と皆さんとを交叉させることによって、混成「ガウディ織」を組み上げてみようと思うのです。

 ハイデガーは、人間の居住する空間を「住み道具」と呼んでいます。住むところ、というのは、洞窟で暮らしていた原始人にとってその場所が「安全」と「安心」さらには「快適」などの要素を持った生活の中心的な場であったように、極言すれば「生きるための必要不可欠の場」と言えるでしょう。
 
 幼少の頃、建築家になろうと思ったことがあります。小さい頃に作った模型は、円筒形の住居でした。庭の一角に穴を掘って洞窟住居の真似事をしたり、木の上に縄を編み込んで今でいうツリー住居遊びをしたこともあります。すべては遊びのままで終わり、建築家になるという夢はいつの間にか消えて行きましたが、自分にとっての理想的な空間を求める旅は、未だに続いています。 
 
 現在、私がその空間を愛でている建築家が3人います。まずはロンシャン大聖堂のル・コルビジュ、日本の国立近代美術館が世界遺産に登録されたのは記憶に新しいところですね。次が、ウイーンのフンデルトバッサー。そして、我らがガウディです。ロンシャン大聖堂はまさに荘厳の一言、フンデルトバッサーの建築は悪く言えば奇抜、よく言えば、ダイナミックで多彩です。そしてガウディは、さてどのように表現したらいいでしょうか。
 
 ヨコ糸にまずワーグナーを持ってくることにいたしましょう。ご存知のようにワーグナーは、人間全体を表現するとの哲学のもとに劇を優先にした「楽劇」なる新しい分野を作り上げました。これに触発されて、建物としての建築は、音楽や詩、舞踊、彫刻や絵画などと一体化した「総合芸術」でなければならない、との信念に、ガウディは到ったのです。彼が最も好きだったパルジファルを聞きながら、単なる「住み道具」を越えたガウディの建築の妙を楽しみましょう。

 Thomas Hengelbrock指揮によるエルプフィルハーモニー管弦楽団の演奏です。
ワーグナー
パルジファル序曲 https://www.youtube.com/watch?v=289hrbua7hE