1、哲学者への二つのアプローチ

 あなたが選んだ哲学者を材料に、あなた自身が社会の問題や世界の問題、そして人生の問題について、回答者の役割をしてもらうー今回の講座のテーマはそういうことになります。そのためには、まず自分で解決すべき問題設定をする必要があります。

 大きく分けると、その哲学者の考え方によって、社会や世界の問題点に切り込むか、その哲学者の思想に逆に切り込んで、現代の問題点に対応可能の箇所を抜き出すか、の二つになります。たとえば、ソクラテスを例にあげましょう。

 彼の方法論は「対話」です。相手の欠点をあげつらって怒らせる、のように解釈されたりもしますが、本質的には、相手が常識だと思って疑問をもたないことに分け入り、「自分の考えていたことはどうも違うのではないか、もっとほかに考え方があるのではないか」と「気づき」を与えることにあります。この気づきが、本質的な部分に触れてくると、思考の転換「目覚め」が起き、ソクラテスのいわゆる「産婆術」となります。このやり方は、小さなサークルから、企業の経営会議、さらには国における戦略会議にいたるまで、人が集まるところでは、どこにおいても通用します。重要なのは、誰かがソクラテスの役割を担うことであれ、理想的なのはその場のすべての人たちが「小さなソクラテス」になることです。

 第二のやり方、哲学者への切り込みは、人間としての生き方から思想そのものにまで、実に多岐にわたりますから、ソクラテスについて見聞きしていることのなかで、まずは気になることをピックアップすることが始まりとなります。たとえば、有名な悪妻クサンチッペとの関係が気になるならば、それと関係する書籍に目を通すのが最も早道です。

 多田淳子『ソクラテスの妻たち』(ピー・エヌ・エヌ新社、1997,1)
 池田晶子『悪妻に訊け 帰ってきたソクラテス』(新潮社、1996.4)

 プラトン描くソクラテスと、クセノフォン描くソクラテスとは、かなりイメージが違っています。実存主義哲学者のヤスパースは「クセノフォンはソクラテスの表面を描き、プラトンはその内面の本質を描いた」と書いています。私たちが知っているのはほとんどプラトンの描くソクラテスですから、クセノフォン描くソクラテスから、もう一つのソクラテス像をイメージしてみるのも面白いと思います。彼の実践知が満載の下記の本が参考になります。

 クセノフォーン『ソークラテスの思い出』(佐々木理訳、岩波文庫、1978)

 クセノポン『アナバシスー敵中横断6000キロ』(松平千秋訳、岩波文庫、1993)には、ギリシアの傭兵としてペルシアに進軍したクセノフォンの一団が、追い込まれて国に戻るまでを描いたものですが、ソクラテスから受けついだ知恵が溢れています。
 
 担当する哲学者について、どちらかでアプローチしてみてください。その哲学者について書かれた書籍を少なくとも一冊求めることから始めるのが早道です。今回のテクストのいわばアンチョコとも言える

 アラン・ド・ボトン『6人の哲学者があなたの悩みを救うー哲学のなぐさめ』(安引宏訳、集英社、2002.5)

 は、参考になります。ソクラテス、エピクロス、セネカ、モンテーニュ、ショーペンハウアー、ニーチェの6人を取り上げ、人生相談に乗ってくれます。こちらの哲学者のほうが面白ければ、それを取り上げてもらっても構いません。