1、興行師シカネーダーの物語

平成25年度第Ⅱ期講座
「しゃべり場」モーツァルトのオペラⅡ-『魔笛』の魅力の秘密 
                     2013.10.11   茂木和行
<講座概要>
 「どんなに音楽的才能のあるオウムであっても、モーツァルトを歌うはずはない」(ジュール・ヴェルヌ『グラント船長の子供たち』)。さて、どうでしょうか。『魔笛』の鳥刺しパパゲーノの歌は、ムクドリの鳴き声から取られています。モーツァルト最後のオペラは、一見するとおとぎ話のように感じられますが、「善と悪」「光と闇」「文化と野生」など、さまざまな切り口からの解釈が許される、実に奥の深い不思議と謎に満ちています。ご一緒に、オウムにモーツァルトを歌わせてみませんか(?!)。魔法の笛の力で。

1、 興行師シカネーダーの物語

 「その主題がフリーメイソンの秘境から発している支離滅裂な傑作であり、この、まず場末のカジノの舞台で当りをとった…ほとんど弁解もできかねる作品」「話の筋の荒唐無稽な錯雑ぶりを越えて、『魔笛』は、ひたすら無私無心と力との頌歌たらんとする以外、何ひとつ望まない、解放された魂の清澄さと合体する」と、フランスの音楽評論家ロラン・マニュエルが評した『魔笛』が、ウイーンのフライハウス(免税)劇場で初演されたのは、1791年9月28日のことでした。
 『魔笛』がどのような経緯で作曲されるに至ったのかは、あまり明確ではありません。伝記作者のオットー・ヤーンによれば、
 「のっぴきならない窮地に追いこまれたウイーンの劇場監督エマヌエル・シカネーダーは、1791年春―くわしくは3月7日といわれている―彼はモーツァルトに、すごく魅力のあるオペラがある。もう一度ぼくを助けてくれないか」―と、モーツァルトのところへ駆け込んだ、ことが始まり、ということになっています。
 シカネーダー(1751年9月1日―1812年9月21日)は、オーストリアとドイツで活躍した俳優を兼ねた劇場支配人であり、台本作家であり、シェークスピアものまで手がけるいまで言えばプロデューサー的な役割も果たしていました。「すごく魅力のあるオペラ」とは、作家であり枢密顧問官のヴィーラントの童話集に収められていた『ルル、あるいは魔笛』を題材としたオペラ、ということです。お金に困ったシカネーダーがモーツァルトに助けを求めたことになっていますが、その後の研究で、当時のシカネーダーは芝居があたっていて金回りは良かったようです。
 ウイーン城郭の外にあった庶民のための劇場フライハウスで初演された『魔笛』はたちまち人気となり、シカネーダーによれば一年間に百回の公演を数えた(実際は八十三回)そうです。モーツァルトは、シカネーダーともヴィーラントとも知り合いで、妻のコンスタンツェや父レオポルトへの手紙に登場します。