1、BBCプロムスのレクイエムを聴く

      -「アーメン・フーガ」付きー

 今日は皆さんにまず、BBCプロムスにおける鮮明な映像とともに、レクイエムの演奏を楽しんでいただきましょう。BBCプロムスは、BBCヘンリー・ウッド・プロムナードコンサートの略で、イギリス・ロンドンで毎年夏に8週間にわたって開催されるクラシック音楽シリーズのことです。

 「クラシック音楽のコンサートに普通は来ないような人たちでも、安いチケットの値段で、気楽に楽しんでもらう」ことを目的に1895年8月10日に始まったプロムスは、いまではBBCが生中継し、ロイヤル・アルバート・ホールを中心会場として100以上のイベントが行われる世界最大の音楽祭とも形容されています。プロムナード(promnade)とは「散歩する」ことを意味するラテン語からきています。

 ご紹介するのは、昨年2014年にロイヤル・アルバート・ホールにおいて、以下のメンバーで演奏されたレクイエムです。

BBC Scottish Symphony Orchestra, Conductor Donald Runnicles
Carolyn Sampson (Soprano), Christine Rice(mezzo), Jeremy Ovenden (tenor), Neal Davies(bass),The National Youth Choir of Scotland,

BBCプロムスのレクイエム https://www.youtube.com/watch?v=VK-oxDF94bg

 BBC スコティッシュ交響楽団(BBC Scottish Symphony Orchestra)スコットランド最大の都市グラスゴーを本拠地とする英国放送協会(BBC)傘下のオーケストラの一つ。

 ドナルド・ラニクルズ(Donald Runnicles,1954年11月16日 - )は、イギリス・スコットランドの指揮者。エジンバラの生まれ。BBC スコティッシュ交響楽団の首席指揮者。

 キャロライン・サンプソン(Carolyn Sampson )、クリスチン・ライス(Christine Rice)ジュリアン・マーク・オヴェンドン(Julian Mark Ovenden )ニール・デーヴィス(Neal Davies)は、いずれもイギリスのオペラを中心とした歌手。

<レクイエムの構成>
声楽: ソプラノ・アルト・テノール・バスの独唱および混声四部合唱
器楽: バセットホルン2、ファゴット2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部、オルガン
フルート、オーボエ、クラリネットといった明るい音色の楽器を使わず、かわりにクラリネット属だが低音のくすんだ、しかし奥深い響きを持つバセットホルンが使われています。モーツァルトはこの楽器が好きだったようで、知人のアントン・シュタードラー兄弟のためにいくつもの作品を残しています。              

★レクイエムの多くの版を聴きわけている人なら別ですが、そうでなければ、ラクリモサが「アーメン」で終わらず、かなり勢いのあるフーガに取って代わられていることに、「あれっ」と思うのではないでしょうか。これは、ピアニストのロバート・レヴィンによ「レヴィン版」を使っているのです。フーガのところは、通称「アーメン・フーガ」と呼ばれています。
 
 以下に、いくつかのレクイエムの版についての説明をあげておきます。

<レクイエム>さまざまな版

1、 ジュースマイヤー版 モーツァルトの死後、弟子のジュースマイヤーによって補筆・補完されたものです。

<レクイエムの構成>
Ⅰ、Introitus(イントロイトゥス 入祭唱)
Ⅱ、Kyrie(キリエ)
Ⅲ、Sequenz(セクエンツィア 続唱)
No.1 Dies irae (ディエス・イレ 怒りの日)
No.2 Tuba mirum (トゥーバ・ミールム 不思議なラッパ)
No.3 Rex tremendae (レクス・トレメンデ 恐るべき大王)
No.4 Recordare (レコルダーレ 慈悲深きイエス)
No.5 Confutatis (コンフターティス 呪われた者)
No.6 Lacrimosa (ラクリモサ 涙の日)
Ⅳ、Offertorium(オッフェルトリウム 奉献唱)
No1. Domine Jesu Christe (ドミネ・イエス・クリステ)
No2. Hostias (ホスティアス)
Ⅴ、 Sanctus (サンクトゥス)
Ⅵ、 Benedictus (ベネディクトゥス)
Ⅶ、 Agnus Dei  (アニュス・デイ 神の小羊=主)
Ⅷ、 Communio(聖体拝領唱)

 モーツァルトは、イントロイトゥスとキリエをほとんど自分で書き、次にオッフェルトリウム(奉献唱)のホスティアスまでを書き、セクエンツィア(続唱)を書き進め、No.6のラクリモサの八小節目で筆を断っています。続唱から奉献唱までの部分は、歌唱声部以外は断片の音形だけで未完のままで終わっています。この部分をジュースマイヤーが補完し、さらに自身作曲のサンクトゥス、ベネディクトゥス、アニュス・デイを付け加え、聖体拝領唱を入祭唱とキリエの反復でおさめています。

2、 バイヤー版 合唱声部はジュースマイヤー版を忠実に保ちながら、補完された弦・管の部分を稚拙だとして、かなりの修正を加えたものです。

3、 モーンダー版 ジュースマイヤーの補完したサンクトゥス、ベネディクトゥス、アニュス・デイをカット。ラクリモサの最後二小節の「アーメン」の代わりに、その後発見されたフーガ・スケッチを使って、79小節に及ぶ「アーメン・フーガ」を作曲し、置き換えたものです。

4、 レヴィン版 ラクリモサの「アーメン」を「アーメン・フーガ」に置き換えたものです。BBCプロムスにおける演奏は、このレヴィン版が使われています。1991年の没後200年記念に登場。

参考:海老沢敏『モーツァルトは宇宙』(音楽の友社)、同『モーツァルトを語る』(同)