2、ソクラテスの「じゃじゃや馬」馴らし

 前回は、皆さまから「気」(き、あるいは、け)のつく熟語について、思いつくだけあげてもらいました。いやあ、結構あるものですねえ。
「き」:元気、天気、気合、気品、気障(きざ)…
「け」:色気、食い気、寒気、火の気、惚気(のろけ)、物の気(もののけ)…
 
 お一人からは、「気品が生き生きと感じられるさま」を表す「気韻生動」なる水墨画の極意をいただきました。何でも南北朝時代の画家・謝赫(しゃかく)が著した『古画品録』で提起された画の基本原理で、東晋の画家・顧愷之の画論を発展させたものだそうです。それによれば、画に六法あり「一に気韻生動」「二に骨法用筆」「三に応物象形」「四に隋類賦彩」「五に経営位置」「六に伝移模写」だとか。何でも横山大観も「画論に気韻生動ということがある。気韻は人品の高い人でなければ発揮できない。日本画の究極はこの気韻生動に帰着すると言っても過言ではない」と言っているとか。

 
 さて、お待たせしました、では、テキストの「クサンチッペ登場」を読んでいくことにいたしましょう。いうまでもなくクサンチッペは、ソクラテスの奥さんで、悪妻として知られています。テキストの10頁で引用されているローマ時代に書かれたギリシア哲学解説本のディオゲネス・ラエルティオス著『ギリシア哲学者列伝』(加来彰俊訳、岩波書店)にあるように、「ガチョウのようにガミガミ」とソクラテスにいつも小言を浴びせているいさましい奥さんです。

 その列伝によれば、ソクラテスのおっかけとして知られていた若者アルキビアデスが、「あのクサンチッペのガミガミには我慢できません」と訴えると、ソクラテスは平気な顔をして「いや、ぼくはもう慣れっこになっている。滑車がガラガラなり続けているようなものだからね」。それに対してアルキビアデスが「ガチョウは卵を産んでくれるでしょう」と応じると、ソクラテスは涼しい顔で「クサンチッペだってぼくの子どもを産んでくれるさ」と答えたそうです(同書p.147)。

 ソクラテスはよく「気性の激しい女と一緒に暮らすのは、騎手がじゃじゃ馬と暮らすようなもので、そうした馬を乗りこなせるようになれば、ほかの馬は楽々と乗りこなせるようになる。それと同じで、クサンチッペと一緒にいれば、ほかの人々とうまくやれるだろうよ」と話していたそうです(同、pp.147-148)。

 プラトンと並び称せられるソクラテス崇拝者であるクセノフォンのことも出ていますが、軍人の彼は実際家としてのソクラテスの一面を詳細に記した『ソークラテースの思い出』(佐々木理訳、岩波文庫)を残しています。

 ペルシア王アルタクセルクセスに反旗を翻した弟のキュロスに傭兵として雇われ、敗れて故郷ギリシアへの波乱万丈の退却行を描いた彼の著書『アナバシスー的中横断6000キロ』(松平千秋訳、岩波文庫)に、ソクラテスから得た知恵によって敵陣を突破し、生き延びたことが描かれています。この話はいずれまた。