2、ムクドリーピアノ協奏曲17番―鳥刺しの歌

 今回は、まねっこ、モーツァルトのお話です。まねっこ、とは人の真似をすることですが、モーツァルトの場合は、ライバルの真似から過去の自分の真似まで、それこそ自由自在。彼の作曲技法は、簡単に時空を飛び回ります。
 まずは、ホロビッツのこのピアノ曲を聞いてください。

http://www.youtube.com/watch?v=yAlUpCzrcwE

 これは、モーツァルトの最大のライバルの一人だったといっても過言ではない、クレメンティのピアノソナタB flat Op.24です。1782年12月のクリスマス・イブに、ヨーゼフ2世はモーツァルトとクレメンティとのピアノ演奏競演を宮廷でやらせます。このとき、モーツァルトは「皇帝はぼくにたいへんご満悦だった」と次のように父・レオポルトに書いています(「手紙」1782.1.16)
 「(ぼくの弾くフォルテピアノは)音が狂っていて、鍵(キー)が三つも動かないのですがー皇帝は『かまわない』と言われました。-ぼくは善意に解釈すれば、つまり、皇帝はぼくの音楽の技術と知識をすでにご存知なので、外国人をちょっと試してみようとなさっただけのことだと思いました。それに確かな筋から聞いたところでは、皇帝はぼくにたいへんご満悦だったそうです。皇帝はぼくにとても好意的で、個人的にいろいろと話してくださり、ぼくの結婚のことにも触れられました」
 同じ手紙の中で、モーツァルトはクレメンティのことを「この人は律儀なチェンバロ奏者です。-でも、それだけのことです。-右手が非常に巧みに動きます。-彼の見せ所は、三度のパッサージュです。-その他の点では、趣味も感情もまったくありませんし、たんに機械的に弾くだけです」と酷評しています。
 さて、この曲をどこかで聞いたことはありませんか。ケネス・ブラナー監督による映画『魔笛』の冒頭を見てみましょう。どうですか、クレメンティのソナタにそっくりではありませんか。そうです、これはまさに『魔笛』の序曲。モーツァルトは、内心、クレメンティの力量を買っていたのではて…。ちゃっかり、いただいてしまって、いますね。
 次の曲を聞いて下さい。これはモーツァルトが五歳のときに作曲したピアノソナタk1アレグロヘ長調(KV1c)です。この明るくて、どこかお茶目な軽快なリズム、どこかで聞いたことがありませんか。そうです、『魔笛』のパパゲーノのアリア「おいらのお望みは娘か恋女房!」(20番)なんです。なんと五歳のときの自分の作曲したメロディーとリズムを、30年後に使っているのですね。これは驚きです。
 次のサイトで、楽譜付きの演奏が聴けます。

  https://www.youtube.com/watch?v=UsoitL3I0fY

 音楽評論家の小塩節さんは、小学校4年のときに、このアレグロを練習させられて、途中で放棄した経験があります。教えてくれた叔母に「くすり指が十分の一秒遅れている」と指摘され、「何がモーツァルトだ」と嫌になってしまったのです。しかし、大人になってヨーロッパに留学した小塩さんは、ザルツブルクで何度も観劇した『魔笛』の中に、その旋律を発見して「心底震えた」そうです。(小塩節『モーツァルトへの旅』光文社、190頁)。

 作曲家で指揮者のローレンス・ラプチャックによる、

ムクドリーピアノ協奏曲17番―鳥刺しの歌

 が、どのように重なっているか、楽しい演奏・指揮・解説をご覧ください。
モーツァルトが1784年4月12日に作曲したピアノ協奏曲17番ト長調の第三楽章を聞くことに致しましょう。彼が記譜したムクドリのさえずりとともに。

 http://www.youtube.com/watch?v=KKjwBd693Kk