2、レヴィ=ストロース  ー構造という名の呪縛

 前回は、「哲学とかけて何と解く」のお題から始め、「輸血と解く。心は、血(知)を入れて活性化させる」などの傑作をいただきました。私が、お一人のつぶやき「トランプ大統領と解く」を受けると、すかさず別のお一人が「どこに行くかわからない」とずばりの明答です。私が用意した解きは「いま、ここ」です。哲学は、歴史上の大哲学者の立てた哲学や自分の生活に関係のなさそうな難しい問題の中にあるのではなく、「いま、ここの、身近にころがっている」が「心」です。

 ご紹介した参考文献『ソクラテスの妻たち』(多田淳子著、ピー・エヌ・エヌ新社、1997.1)に登場する蜷川幸夫夫妻が、まるでサルトルとボーボアールの関係を思わせる話など、「身近性」の例を挙げさせてもらいました。

 さて本日の登場者クロード・レヴィ=ストロ-ス(1908-2009)は、フランスの社会人類学者、民族学者として知られていますが、ソルボンヌ大学で哲学を学び、哲学教師として出発した人です。ブラジルのサンパウロ大学に社会学教授として赴任したことをきっかけに、未開社会のフィールドワークに目覚め、ブラジルやパラグアイ、アマゾン川支流の民族調査にあたり、『悲しき熱帯』(川田順三訳、中公ブックス、上下)を著します。

 その後、ナチスのユダヤ人迫害で逃れたニューヨークで言語学者のロマン・ヤコブソンと知り合い、ソシュールによって創始された「構造言語学」の洗礼を受けます。日本人にとって七色の虹も、アメリカ、イギリスは六色、フランス、ドイツ、中国は五色、ロシア・東南アジア諸国は四色、三色(台湾の原住民)や二色(アフリカの原住民)もあり、使用される原語によって、色が分節されています。言葉という下部構造によって世界の見え方が違う構造主義の方式を、未開社会に当てはめ、「交叉イトコ婚」(父方の叔母の子供か、母方の叔父の子どもと結婚させる)によって近親相姦を逃れながら部族の血縁を保つ方式を、同族社会を維持する構造と見た『親族の基本構造』(福井和美訳、青弓社)を表すにいたります。

  「構造」の考え方は大変便利なものなので、簡単に説明しましょう。椅子やテーブルは、三本か四本の足という構造に支えられています。人間を含む生命体が生命を維持し、増殖して、あたかも未来永劫にわたって存続できるような体制を取れているのは、DNAという二十螺旋構造の賜物です。宇宙は、アインシュタインが見出した相対性理論によって、物質とエネルギーがある方式によって結ばれる数式構造のもとで、過去・現在・未来が決められています。

 サラリーマン社会の「飲みにケーション」も、会社意識を保つための隠れた構造です。「村八分」などは、典型的な「村民」を縛り付ける見えない構造と言えるでしょう。決まりなるものは、すべて一つの構造です。ルソーらが見出した「社会契約」も、社会を安定的に維持するために、人類が発明した「構造」なのです。
皆さん自身が、どのような構造の基で縛られているか、考えてみてください。

 ところでレヴィ=ストロ-スは、『野生の思考』(大橋保夫訳、みすず書房)で、未開社会が動物や植物を多様・多彩に分類していることを示し(p.7)、原始心性は遅れているとの視点に立つサルトルに対して、どの社会も「人間の生の持ちうる意味と尊厳が凝縮されている」と反論しています(p.299)。