3、ホーキングの宇宙―タイム&スペース・トラベル

 前回は、パスカルの問いに、現実世界がミクロの量子の世界と同じような「重ね合わせ」の状態で出来ている可能性が示唆されていることを示しました。もしそうならば、わたしたちは時空を越えて、未来や過去の求める場所に入り込むことができることになります。「どこの時代のどこに入り込みたいか」の問いに対して、「宇宙の始まりの瞬間」「地球が膨張する太陽に飲み込まれる場面」「ブラックホールの中」あるいは「サッカーの北海道大学決勝戦で、自分のミスで敗れたあの現場」といった、現実的なお答えもありました。

 村上もとかの大河劇画『仁』(集英社、2001年4月9日第一冊発行)は、一人の外科医が2000年の日本・東京から1862年の江戸にタイムスリップして、数々の体験をしたのち再び東京に戻ってくるという一大ドラマです。テレビドラマ化されていたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。時間を自由に往来するタイムスリップは、タイムマシンを駆使しての「バックトゥーザフューチャー」が記憶に新しいですが、「仁」はいわば、時空には一種の穴が空いていて、そこにスリップすると過去へも未来へも行ってしまうお話です。
 
 アインシュタインの相対性理論によって、早いスピードで動く乗り物に乗っていると時間はゆっくりと進み、強い重力のもとでも時計はゆっくりと進みます。光速に近いロケットで宇宙旅行に出かけて地球に戻ってくると、まわりはみんなおじいさんやおばあさんになっていた、という浦島太郎の話が現実のものであることを示しています。

 その相対性理論では、時空のトンネル「ワームホール」を使えば、母親の時代に戻って父と出会わないようにし、自分という存在を誕生させない、などという奇妙なことありえることになります。映画「ターミネーター」で未来から送り込まれたロボット人間が、反乱人間のリーダーが生まれることを阻止しようとするお話は、この過去へのタイムトラベルが可能であるとの前提に基づいています。

 しかし、量子論を駆使してホーキングは、「時間順序保護仮説」なる新説をかかげ、過去への旅は出来ないことを証明した、と言っています。ワームホールは量子効果によって潰れてしまうので、過去へは行けない、というのです。「タイムマシンが原理的にできるなら、未来からの旅行者で満ちあふれているはずですが、そうはなっていません」と、ある講演会で楽しげにジョークを飛ばしたそうです(佐藤勝彦他訳『ホ-キング最後に語る』早川書房、p.18)

 とはいえ、ホーキングも万能ではなく、かつては「宇宙が収縮を始めると、時間の矢が逆転し、宇宙のエントロピーは減少に向かって、私たちの脳から記憶が消え、コンピュータのメモリーから情報が消えていくだろう」と予言したことがありますが、その後、計算のやり方のミスで得られた結果だとわかり、取り消したいきさつがあります(同書p.16)。

 どらえもんの「どこでもドア」は、身近に時空のトンネルを作り出したすばらしく夢のあるアイデアです。「どこでもドア」が体験できるAR部屋が出現しています。ちょっと体験に行ってみましょう。