3、マリア・テレジアとのティータイム

 「私があなたにお知らせしなければならないいちばん新しいニュースは、私どもが19日の午後二時半から四時半まで、皇太后陛下(マリア・テレジア)のもとに参上いたしましたことです。皇帝陛下(ヨーゼフ2世)は、私どもが後続の方がたがコーヒーをお飲みになられるまでお待ち申し上げていた控えの間までお出ましになられ、おんみずから私どもを招じ入れてくださいました。皇帝と皇太后のほかにザクセンのアルベルト王子(第4皇女マリーア・クリスティーナと結婚)さま、それに皇女さまが全部いらっしゃいました」

 「申し上げなければならないのは、皇太后陛下がどんなにお親しげに家内とお話になり、ひとつには子供たちの天然痘について、ひとつには私たちの大旅行のこまごました事柄について語りあわれたかをご想像いただくことは不可能だ、ということです。陛下が家内の頬をさすられたり、腕をおつかみになったりなさったことも、ご想像できないでしょう」「一方、皇帝陛下は、私やヴォルフガンゲルと音楽のことや、その他いろいろなことをお話しくださりました」(ウイーンのレオポルトから家主ハーゲナウアーへの手紙 1768.1.23)

 マリア・テレジア(1717-1780)は、夫・フランツ1世の死(1765年)以来、オペラや芝居などの娯楽をいっさい控えるようになっていました。モーツァルト一家が6年ぶりにウイーンに来ていることを耳にすると、宮廷への伺候を命じましたが、「びっくりするほどのご好意や筆舌に尽くしがたい愛想のよさも、すべてなんの役に立つのでしょう!…たしかに綺麗だけれども、たいした金額にはならないので、その値打ちを調べてみようなどといちどでも思ってもみないメダル一個以外には、なんにもありません」と、レオポルトをがっかりさせています(1768.1.30 家主への手紙)

 しかしその代わりに、皇帝ヨーゼフ2世がびっくりするような話を若干12歳のモーツァルトに持ちかけたのです。それがオペラ作曲の依頼でした。

「このお方はヴォルフガングに二度も、オペラを一曲作曲し、自分で指揮してみる気はないかとおたずねになりました。あの子ははっきりと、やってみたいと申しました」(1768.1.30レオポルトから家主ハーゲナウアーへの手紙)

 このオペラが、モーツァルトにとって最初の本格的な三幕のオペラ・ブッファ『みてくれのばか娘(ラ・フィンタ・センプリチェ)』(k.51)です。しかし、ウイーンの音楽家たちの猛反対にあい、ヨーゼフ2世への書面による直訴もかなわず、上演はつぶされてしまうのです。「約束された100ドゥカーテン(450フローリン)の報酬」はふいになり、「558頁(!)というオペラ一曲にかけた骨折り」も無駄になったのです(1768.9.21 皇帝に提出したレオポルトの「事件供述書」より)。

 さて、マリア・テレジアは16人もの子ども(男5、女11)を産みました。そんな中で、内政に外交にと、驚くべき手腕を発揮したスタミナの秘密は何だったのでしょうか。彼女が毎日7~8回は口にしていたという「オリオ・スープ」のレシピを、当時のハプスブルク宮廷料理人による100人分のレシピからご紹介します。

1、10キロの子牛肉を切り、250グラムのバターで軽く焼く。
2、30リットルの水の入った大きな鍋で、脂肪分の少ない15キロのスープ用スネ肉を骨ごと煮る。
3、2に1とスープ用根菜類(人参、セロリ、パセリ、タマネギ)と調味料を加えて、何度もあくをすくいながら熱する(原液スープ)。一方で、次のような準備を行う。
 ① 皮をむいて焼いた500グラムの栗の実と、500グラムの粉糖を混ぜる。これに1リットルの原液スープを加えて1時間加熱後、裏ごしし、一日置く。
 ② 毛と皮をむいたウサギの肉を細かく切り、ベーコンとともにソテーする。これに1リットル原液スープを注ぐ。十分に加熱後、裏ごしして冷所に保存。
 ③ カブ500グラムをサイコロ状に切り、バターと砂糖を加えて軽くソテーする。これに1リットルの原液スープを注ぎ、加熱後、裏ごしする。
 ④ 山ウズラ二羽分、野ガモ一羽分を根菜類とともにソテーし、深鍋に移す。これに2リットルの原液スープを加え、二時間煮込んで裏ごしする。
 ⑤ 1.5キロのキャベツを根菜類とともに塩水のなかにさっとくぐらせる。これらをベーコンとともに、鍋で褐色に色づくまでゆっくり炒める。これに原液スープを1リットル注ぐ。1時間加熱後、裏ごしして保存しておく。
 ⑥ 250グラムのレンズ豆をよく洗い、1リットルの原液スープを注いで1時間加熱後、裏ごしする。
 残りの原液スープは脂肪分を何度も取り除き、裏ごししてから一日置く。
4、脂肪分のなるべく少ない赤味の牛肉1キロを薄く切り、10個分の卵白を混ぜ、これに前記の全スープ(①~⑥)を加えて加熱する。
5、もう一度、脂肪分を取り除いてから何種類かの根菜類と250グラムのキノコを加えて、ときどきかき混ぜながら煮つめる。
6、軽くソテーした鶏肉二羽と羊のもも肉500グラムを加えて煮込む。注意深く4時間煮込んで30リットルに仕上げる。この間、何度もあくを取ってスープ用の布でこし、味を整えて熱いうちに出す。
(関田淳子『ハプスブルク家の食卓』新人物往来社、2010.6、pp.82-84より)

★なんとも凄まじいレシピですね。とても家庭では実行不能なので、私たちは女帝の好んだ通称「マリア・テレジア・コーヒー」で我慢することにしましょう。

材料:コーヒー(深煎り)120cc、オレンジリキュール(あるいはオレンジキュラソー) ~8cc、ホイップした生クリーム 20cc、カラフルな小粒のキャンディ 適量
作り方:1、カップにオレンジリキュールを入れ、コーヒーを注ぐ。
2、 ホイップした生クリームを浮かべ、その上にキャンディをまく。
注:1、キャンディが重くて沈んでしまう場合は、細かく砕く。