3、第三回―第六回のまとめ

第三回 男性原理と女性原理

 ユングの弟子でドイツ出身のイスラエル人心理学者エーリッヒ・ノイマンは、深層心理学の立場から、『魔笛』を母権的意識と夫権的意識の対立と解釈する、なかなか興味深い、しかし、女性たちからするとかなり噴飯もの、と感じられるだろう説を立てています。神話の中には「母権、グレートマザーの支配、月と夜の女主人」と「夫権、父の世界の支配、太陽と昼の主」の対立図式があり、『魔笛』はこの図式をそのまま反映している、というものです。とくに、夜の女王には、男性原理への敵意と、母の世界の秘密が漏れるのではないかとの不安が、何千年も前の神話の世界そのままに露出している、とノイマンは考えました。
 うーん、なるほど、と男性たちはこの説に納得してしまうのですが、男の世界が正しくて善で、女の世界は間違っていて悪である、という男たちの本音をそのまま表したともいえ、女性にとっては「またか」の感が否めません。なにしろ、最後には女性世界は、男性世界によって滅ぼされるわけですから、モーツァルトがそんなことを考えて作曲したとは、思えませんね。

第四回 フリーメイソン

 よく知られているように、モーツァルトはフリーメイソンの一員でした。『魔笛』の台本作者シカネーダーもフリーメイソンでした。さまざまな試練を経てパミーナと結ばれるタミーノの成長の軌跡は、フリーメイソンの入信儀礼を表しているのでしょうか。

第五回 ゲーテと魔笛

 モーツァルトにぞっこんだったゲーテは、『魔笛』のその後、『魔笛』Ⅱを作ろうとしました。タミーノとパミーノの子どもが主人公となるストーリーは、未完に終わり、作曲者も見つかりませんでした。モーツァルトが生きていたら、ゲーテのために『魔笛』Ⅱを作曲していたでしょうか。ゲーテの詩『すみれ』にモーツァルトが作曲した歌曲は、シューベルト作曲『のばら』ほどは有名でないかもしれませんが、オペラのアリアに相当するような素晴らしい曲です。

第六回 モーツァルトはパパゲーノ?

 モーツァルトは、彼のオペラに登場するたくさんの人物たちに例えれば、どの登場人物に近いのでしょうか。『後宮からの誘拐』のヒーローであるベルモントは、モーツァルトの妻コンスタンツェと同名の恋人に、恋のアリアを捧げています。ヨーゼフ皇帝依頼のドイツ語によるこのジングシュピールが初演されてから半年後に、モーツァルトはコンスタンツェと結婚しました。ベルモントのアリアは、当時のモーツァルトの想いをそのまま曲にしたような感じがします。「パパパの歌」の愛唱が忘れられないパパゲーノとパパゲーナの組み合わせは、モーツァルトが描いた「愛の姿」の理想形ではないでしょうか。