3、AI君、君はフェルメールの贋作家になれるかな

 前回は、AIを使って美空ひばりを現代に復活させるNHKのプロジェクトを観てもらいました。美空ひばりの膨大な歌声と、息子のために録音したお話をデータに、ディープラ-ニングの手法を駆使しての大実験でした。音楽では、映画音楽やクラシックなどのお好みのタイプで、作曲してくれる「Jukedeck」なる著作権フリーのサービス・ページがあります。

 ただし、Jukedeckのサイトhttps://www.jukedeck.com/は「しばしお待ちを!」のようなお断り書きが英文で出てきます。ただいま、調整中、ということですかね。

 絵画では、グーグルの「ディープ・ドリーム」で描かれた無数の作品がネット上であふれています。「心の内側で起きている事象を視覚化するシステム。思いっきり心が病んじゃった系、変なお薬たくさん飲んじゃった的なアート作品」「Googleが開発した人工知能が見る夢『Deep Dream』が世界中で話題となっています。AIによって人工的に生成された画像は、まさに悪夢そのもの」などの表現で紹介されていて、ご覧のようにあまり気持ちのよいものではありません。(https://www.youtube.com/watch?v=5JPEA7k0byE)。
 
 2016年には、マイクロソフトがオランダのレンブランドハイス美術館などと協力して、レンブランドのスタイルを学習し、「中年男性の絵をレンブラント・スタイルで描け」と指示しました。それがこの作品(https://wired.jp/2016/04/14/new-rembrandt-painting/)です。おお、いかにもレンブラントですね。

 レンブラントの要素を抽出したAIに、レンブラントには登場しない画像、たとえばゴヤの「我が子を食らうサトゥルヌス」のような絵を描け、と指示すれば、そうしたレンブラントが出来上がる、というわけです。
 
 復元した美空ひばりもこのレンブラントも、言ってみればAIによる贋作です。フェルメールの贋作で知られるファン・メーヘレンは、フェルメールの時代の顔料やカンバス、額までも用意して、誰もがフェルメール作として疑わなかった「エマオの食事」(ロッテルダム・ボイマンス美術館展示)などいくつもの贋作を作りました。彼の“フェルメール”作品がナチスに渡り、戦後、国の宝を売り渡した罪で裁判にかけられることになりました。

 彼は、自作であることを証明できないと有罪になることから、連合軍芸術委員会事務室で絵筆を取り、取材記者まで陣取る前で、次々と “フェルメール”を描き出し、贋作であることを納得させたのです(フランク・ウイン『私はフェルメール』講談社、pp.233-243)。
 ヴァン・ドンゲンやドラン、モジリアーニ、ドュフィの贋作を多数描き、ヴァン・ドンゲンにして「自分の作品だ」と言わしめたレアル・ルサールの驚天動地の打ち明け話も、是非読んで欲しい一書です(『贋作への情熱-ルグロ事件の真相』鎌田真由美訳、中央公論社)。

 贋作作家もAIも、有名作家のタッチや絵筆の使い方、色の出し方などを学び、いわばその画家の過去の絵画からその画家風の絵を描き出します。しかし、レンブラントが仮にあと十年生きたとしたら、その絵は劇的に変化したかもしれません。
 「青の時代」から「キュビズム」「シュルレアリズム」など作風がめまぐるしく変化したピカソのように、過去の集積はその画家の未来の変容可能性を予測できません。未来は、本物の可能性の中にあり、贋作作家もAIもそれを読み取ることはできないのです。皆さんは、どう思いますか。