4、ウィットゲンシュタイン
右手の手袋はいかにしたら左手にはめることができるか
4、 問い:次のような二種類の二枚の紙片をいくつも作って、机の上にばらまき、かき混ぜてみよう。その二種類の紙片を区別して選び出すことができるだろうか。
〇 × | × 〇 |
テクスト: ウィットゲンシュタイン 右手の手袋はいかにしたら左手にはめることができるか。
(『論理哲学論考』中央公論、p.422-423)
「人は右手と左手とを重ね合わすことはできないというカントの問題は、すでに平面においても、それどころか、一次元の空間においても起こりうるのである。一次元における二つの合同の図形a(〇×)とb(×〇)とは、この空間の外にもちださないかぎり、重ね合わすことはできない。右手と左手とは、実際に完全に合同である。それを重ね合わすことはできないが、このことはしかし、完全に合同であるということにとっては、どうでもいいことである。
右手の手袋は、もしも四次元の空間では裏返しにできるとすれば、左手に着用できるであろうから」
サブ・テクスト:マーティン・ガードナー『自然界における左と右』紀伊國屋書店。
<解題>
カントは『プロレゴメナ』のなかで、次のような問いを立てている。「私の手、もしくは私の耳に似ていて、あらゆる点でこれに等しいものとしては、鏡におけるその映像以上のものがありうるであろうか? それでもなお、私は、鏡に見られるような手をその現物に位置に置くことはできない。なぜなら、この現物が右手であったとすると、鏡のなかの手は左手であるし、また、右耳の映像は左耳であって、この左耳は決して前者の代わりをすることはできないからである。…一方の手の手袋は、他方の手に使用することはできない。それではこれをどう解決するか?」(理想社 カント全集第六巻「プロレゴメナ」超越論的主題問題 第一篇 第十三節 p.243)
右手と左手の手袋をめぐるこの議論は、右利きと左利きの問題、スイカズラは右巻きでアサガオは左巻き、かけっこのトラックは左巻き(反時計回り)、 左手は不浄? 生命の遺伝子DNAのらせん構造は基本的に右巻き…など、さまざまな話題に通じている
プラトンの対話篇『ポリティコス』には、宇宙がかつては逆回転していた話が語られている。そのときは時間も反転し、年取った者が若者に戻っていき、やがて赤ん坊になり、消えてしまう、不思議な物語が展開する(プラトン『ポリティコス』(プラトン全集3、岩波書店、pp.235-237)。
カントは、三次元を越える多次元の世界があることをすでに見通していた(カント『活力測定考』(理想社 カント全集第六巻第1章11節 pp.38-39)が、四次元世界で右手の手袋が左手にはまることにまでは考えが及ばなかった。