4、AI君、君はノーベル賞を取れるかな

 旭化成の名誉フェロー、吉野彰さんが今年のノーベル化学賞をとりました。
吉野さんのノーベル化学賞の受賞理由について、ノーベル委員会は、「リチウムイオン電池は、軽くて、再充電できる強力なバッテリーでいまでは小型の携帯電話やノートパソコン、電気自動車などあらゆるものに使われている。太陽光や風力などのエネルギーを十分ためることができ化石燃料が必要ではない社会を作り出すことも可能にする」としています。

 自分の創造したものが、ここまで社会に普及して、世の中を変えていくとは、思ってもみなかった、と、受賞後の会見では謙遜気味に語っていますが、受賞する1年前に『週間ダイヤモンド』のインタビューに答えている吉野さんの話は、「創造」を育む興味深い秘密に満ちています(特別レポート2018.10.31)。

 同レポートによると、吉野さんは当初、「デジタルカメラ向けの蓄電池を想定して」リチウム電池の開発を始めたそうですが、「小型・軽量で繰り返し使えるリチウムイオン2次電池の用途は、それぐらいしかなかった(苦笑)」からだそうです。吉野さんは高校時代に古代遺跡の発掘を手伝ったことから考古学に興味を抱き、京大の教養課程時代には奈良や京都の廃寺跡などでの発掘に夢中になったそうです。そこから、「過去に学ぶ」という彼の「研究哲学」が生まれ、ノーベル賞受賞つながったことは注目すべきことでしょう。

 「世の中でトレンドと言われている情報をたくさん集めて未来を予測しようと試みても、変化のスピードが早く、情報が溢れている状況下ではピシッとした照準を絞ることができない。IT革命で、時代はめまぐるしく動いている。将来の予測をする上で重要になるのは、(1)過去数十年という短いスパンで人類の歴史を眺めて、過去から現在までの変化をたどってみることです。もう一つは、(2)過去1000~2000年という長いスパンで人類の歴史を捉え、大きな流れをつかむことです。私は、長短のスパンで時代を読むのが大切だと思う」

 「世の中は、なぜ今日のように変化してきたのか、どうして人々の意識は移り変わったのか、過去の歴史で似たような事例はなかったか、現代の変革で参考になる出来事はなかったか。過去からの歴史の延長線上で、5~10年の近未来と20~30年の中長期の未来を想像する。自ずと、照準は絞られてくるはずです」(同インタビューでの発言)

 実に啓示的な言葉ですね。吉野さんは「バズワードは実現する」との興味深い説も披露しています。バズワードというのは、かつての「マルチメディア社会」、現代では「CASE」(Connected常時接続化、Autonomous自動運転化、Sharedシェア化、Electric電動化の頭文字を取ったもの)「MaaS」(Mobility as a Serviceの略で、自分で自動車を所有せず、使いたいときにだけお金を払って利用するサービス)などの、“もっともらしく聞こえるけれど、具体的な意味や定義が曖昧なままの流行語”のようなもの(吉野さん)です。

 過去の数値傾向から、未来の数値状況を予測するのはAIの得意分野だとしても、私たちの人生がどうなるか、それはAIの及ぶところではない、との話をピカソの変容を例にしてお話しました。しかし、吉野さんの過去から未来を予測する手法は、AIの得意とする分野であり、ひょっとすると「吉野型AI」がノーベル賞を取る日が来るかも知れませんね。