5、ガウディの見ていたものー田中裕也を織り込む

 設計図を残さなかったガウディに代わって、現地測量による詳細な図面を作ろうとしている田中裕也の試みに、ガウディ自身の言葉を重ね合わせてみることにしましょう。

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 バルセロナの南西隣、タラゴナ県で生まれ育ったガウディは、とりわけ地中海に面したタラゴナの海を愛していました。その海を通してガウディは、遠く離れた古代ギリシアの文明を常に感じていたのです。

「私のギリシア的な性質は、地中海のためである。地中海のヴィジョンが、私のために必要なものを(必然性)つくりあげる。私はしばしば海を見ることが必要である。…毎日曜日に私は防波堤に行った。海は3次元―空間を総合する唯一のものである。その表面に、空は自らをそこに投映する。…私の理想はタラゴナの奇跡海岸において、すべてのものを見ることである 」(入江正之編訳『ガウディの言葉』彰国社、p.114)
 この海岸からガウディが見据えていたものは、アテナイのアクロポリスにある守護神アテナが座した神殿エレクティオンでした。

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 「徳は中間点にある。地中海は大地の真ん中にあることを意味する。その岸辺には中庸の光が45度の光が挿す。この光は物象を最もよく明るみに出し、形態を明瞭に開示する。この強すぎも弱すぎも弱すぎもしない光の均衡ゆえに、この場所に偉大な芸術文化が開花した」(同p.115)は、ガウディの名言ですね。

 田中によれば、ガウディは「地中海に面した国の人々は北欧の人々より強烈に美を感じ、北欧の人々は富を愛す」「芸術を創るのは大半が地中海の人々で、北欧の人たちはそれを自分たちのものにするために巨額の富を払う」と語っていたそうです(田中裕也『ガウディ・コード ドラゴンの瞳』長崎出版、p.13)。

 ガウディは、建築は「主題となる詩的観念を私たちに想起させるような対象を表現しなければならない」とし、その主題は「歴史、物語かつ戦闘であり、また象徴、寓話であるが、人間とその生涯に関しては出来事と受難である」(入江正之編訳「日記装飾論」『ガウディの言葉』p.51)と書いています。生涯のパトロンであるグエルに依頼されて建てた「フィンカ・グエル(グエル別邸)は、ギリシアの題材によって「詩的な観念」を私たちに呼び起こす格好の建築になっています。

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フィンカ・グエル(グエル別邸)

 中央入り口のオレンジの柱頭をもつ門柱とドラゴンの扉は、ギリシア神話の「ヘラクレス12の冒険」第11話「ヘスペリデスの園」とカタルニアに伝わる聖人サン・ジョルディ伝説とが組み合わされています。黄金のリンゴを守っているドラゴンをヘラクレスが退治する話と、捕らわれの姫を救い出す話が一つになり、リンゴはオレンジに代えられています。

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 カタルニア出身の作曲家アルベニス(1860-1909)の名曲「アストゥリアス(伝説)」を聞いていると、ドラゴンに乗って地中海上を舞い、古代ギリシアの神殿にまで浮遊するガウディの姿が見えるように感じませんか。演奏はフランシスコ・タレルが国際コンクールで優勝したクロアチア出身のクラシック・ギター奏者アナ・ヴィドヴィチです。

アストゥリアス https://www.youtube.com/watch?v=inBKFMB-yPg