5、誰かの幸福よりも国全体の幸福を考えよ

             第四巻一~同六(290-320頁419A-429A)

 第四巻の基本的な考え方は、目指している理想的な国は、一人の人間の幸福を考えるのではなく、国の構成員すべてが幸福であることを考えよ、ということです。そのためにはどうしたらよいか、の視点から以下のように考察が進みます。

一、 国民のそれぞれがそれぞれの幸福を享受させるようにする専門の職人が守護者であること。
二、 富は職人を怠惰にさせ、貧乏は職人の技術を劣悪にさせること。
三、 国家には適正な規模がある。国民の一人一人がその適した仕事に就くようなとき、その国家は適正な規模となる。
四、 旧き良き習俗(νόμιμοςノミモス:慣例、しきたり。年長者に席を譲る、両親の世話をする、など)が秩序と法を守る人間に育てる。
五、 こまごまとした法をつくることばかりに気を向けるな、神のことは神にまかせろ。
六、 正しい仕方で建設された国家は、「知恵」「勇気」「節制」「正義」を備えているはずだ。まず目に付くのは知恵だ。そして、それは最も小さな部分である指導者・支配者に存在する。

 守護者は、国民の一人一人がその分に応じて幸せになるように導くプロであることが求められます。そして、その国の一人一人が適した仕事に就けるような状態が、国家の適正規模であり、必要な仕事に就く人が足りなかったり、逆にあぶれるような状態は好ましくない、とするのです。

 その国は、基本的に法と秩序が守られることが原則ですが、それはいたずらに作られるのではなく、旧き良き「習俗」に従え、とプラトンは説きます。ここで言う「習俗」とは、その国なり地域で、伝統的に守られてきた「生き方の基本」であり、いってみれば伝統に支えられた慣習法に従うのをプラトンは良しとするのです。そして、最も大事な神事については、デルフォイの神託を告げるアポロンに従え、と説きます。

 このようにして作り込まれた国家には、自ずから四つの徳「知恵」「勇気」「節制」「正義」が具現化されているのを見ることができる、とプラトンは続けていきます。

 「習俗」は、通常ἦθος(エートス:習慣、習俗、慣習)の訳語として使います。こちらは「性格」「性質」「人柄」「品性」「人格」の意味も持ち、生き方がその人の人柄を決めていく、という意味の連動性をもっています。 νόμιμος はνόμος (ノモス:法、法律) につながる言葉です。日本語にすると同じ「習俗」となりますが、ギリシア語のほうが、国のあり方につながるものと、個人のあり方につながるものとが差別化されていることに注目すべきでしょう。プラトンが国家で模索しているのは、いわば法(ノモス)の人格(エートス)化だと思います。