6、「必要」が国家の起源だ

 前回は、受講生の一人が対話篇『プロタゴラス』のソフィストの技術をめぐり、心(魂)を浄化することがその一つの役割である、と読み解いてくれました。

 また、秀村欣二著『世界の歴史(ギリシア、ヘレニズム)』から、ペルシア戦争の勝利後にアテナイがエーゲ海域の諸国と結んだデロス同盟によって、スパルタに代わりギリシアの盟主となったこと、そしてペリクレスのもとでポリス民主制が確立し、経済的にも繁栄の道をたどるようになったこと、などが示されました。そのなかで真理相対主義のソフィストたちが現れ、一方で批判者としてのソクラテスが対話法によって善の探究と無知の自覚を人々に促したものの、「ソフィストと同じ新しがりの危険分子」とみなされて市民たちの反感を買い、死刑になった、との説明がありました。

 ソフィストの文化史的意義やソクラテスとの関係を重層的に知るためにも、哲学史家シュヴェーグラーの分析を参考までにあげておきます(『西洋哲学史(上)』(谷川徹三・松村一人訳、岩波文庫、pp.76-87)

 本日は、前回お配りしたクセノフォーン『ソークラテスの思い出』(佐々木理訳、岩波文庫)から、「ヘラクレスの二つの別れ道」をまずはご紹介します。対話篇『プロタゴラス』でソクラテスが「神様のような人」と讃美(316A)しているソフィスト、プロディコスに由来するもので、『国家』(365B)におけるピンダロスの詩「正義の道と邪なる欺瞞の道との、どちらを行けば、より高い城壁に…」に通じるものです。同じような話が語られているヘーシオドスの『仕事と日(々)』(松平千秋訳、岩波文庫、p.46-47)もあげておきましょう。

 さて、アデイマントスは、評判や報酬にかかわるからという理由での正義讃美ではなく、そのもの自体で正義がその持ち主にいかなる利益をもたらすのか示して欲しい、とソクラテスに迫っていきます。ソクラテスは、一個人の正義を論じるよりも国家という大きなものの正義を考えたほうがより探究がしやすいのではないか、とアデイマントスに持ちかけます。そして、国家が生じたのは、一人一人では自給自足ができないことにあり、国家づくりのキーワードを「必要」だとして(369C)、1に食料、2に住まい、3に衣服をあげます。

 だれでも、生まれつき(ピュシス)の異なった素質に向いた仕事があり、一種の分業体制がもっとも効率が良く、それぞれの生産に従事する専門的な職工も必要になってくる…と国に必要な人口が次第に増え、必要なものをすべて生産できるような場所があるとは限らないので、貿易のための商人もなければならず、市場でさまざまな産物を売る小売商人、さらには力仕事のための賃銭取り、とソクラテスの話はどんどんと広がっていきます。こうして、衣食住に満ちたりながら、戦争や貧乏を心配してのほどほどの生活をする人々によって営まれる国家のモデルがまずはできあがっていくのです。

 これに対して「それでは豚の国と変わらない」とケチをつけるアデイマントスにうながされて、寝椅子などの家具から絵画や刺繍、音楽家、詩人、舞踏家など、ソクラテスのいう「贅沢国家」を構成する文物と関連職業をあげていきます。そして、いわば“欲望が膨張する国家”を養おうとすることが戦争の起源である、と、論法を進めて行きます。