6、コロナ禍における哲学

 ヘーゲルは、『法の哲学』の序文で、こんなことを言っています。

「ミネルヴァのフクロウは黄昏に飛び立つ」

 ミネルヴァは古代ギリシアの知恵の女神アテナと同一視されるローマ神話の女神で、フクロウは知恵(哲学)を伝える象徴的な生き物です。「黄昏」は、一つの時代の終わりを意味し、いずれくる次の時代の予感が含まれています。
 コロナ禍に蹂躙されている現代は、何かの時代が終わる「黄昏時」なのではないでしょうか。

 前回、『心を操る寄生生物』(キャスリン・マコーリフ著、西田美緒子訳、インターシフト)から「第2章 宿主の習慣や外見を変える」をお配りしました。そこには、暗闇を好むコオロギに寄生した水生のハリガネムシが光を好む化学物質を生成し、コオロギを水の反射による明かりで池に誘導して自らの産卵を助ける現象(pp.36-44)が報告されていました。

 デング熱の原因ウイルスが、人間の臭いに敏感になるように蚊の触覚にある臭覚受容体の機能に関わる遺伝子を変化させてしまう、との記述は、遺伝子レベルでの宿主コントロールが起きていることを示すものとして、いささか衝撃的ですね(p.55)。

 日本経済新聞は「世界はウイルスでできている」の連載(10.18~11.15)により、ウイルスが生物の進化から海洋の二酸化炭素濃度の変化にまで影響を及ぼし、私たちのうつ病の原因にまでなっている現実を描き出しています。半生物に過ぎないウイルスが、生物世界に甚大な影響を及ぼしていることは、ミネルヴァのフクロウがいままさに飛び立とうとしている一つの時代の黄昏を示している気がするのです。

 新しい時代の哲学とはいかなるものであり、私たちにいかなる生き方を促そうとしているのか、私自身のいささかデフォルメした表現も含んでいますが、過去の大哲学者の言葉からそのヒントを探ってみたいと思います。

ソクラテス(~BC469-BC399):汝自身を知れ。
プラトン(BC427-BC347):汝は影。本体のイデアを見つめよ。
アリストテレス(BC384-BC322):驚け、驚け、驚け。未来が見えてくる。
デカルト(1596-1650):思え、思え、思え。汝は虚ではなく実である。
パスカル(1623-1662): 自在にそよぐ、1本の葦になれ
カント(1724-1804):汝の分に従って行為せよ。
ヘーゲル(1770-1831):矛盾があるときこそ未来が開ける。
ニーチェ(1844-1900):未来もまた永劫回帰する。
ハイデガー(1889-1976):今こそ、汝を投げ出す時だ。
サルトル(1905-1980):汝のなりたい自分になれ
 
 さて、皆さんはこの言葉のどれに、ミネルヴァのフクロウのメッセージを感じますか。