6、プラトンのガイア理論:あなたは「イデア」の声が聴こえますか

 前回は、「プラトンは全体主義者である」とのカール・ポパーの主張に対し、お一人が「安全」を、お一人が「健康」をキーワードとした素晴らしいプラトン擁護論を展開してくれました。プラトンの考え方の中には、確かに「個」よりも「全体」を重視する思考があることは確かかもしれません。しかし、その全体が「個」を生かす(活かす)ための存在であり、それが「イデア」だとしたらどうなのでしょうか。

 「プラトンの神学論」として知られる『法律』第十巻を通して、プラトンの真髄が、現代における「ガイア理論(仮説」と驚くほど通じていることをこれから見ていきたいと思います。ガイアとは地球のことであり、イギリスの生物学者ジェームズ・ラブロックが唱えた「地球はそれ自体がひとつの生命体である」とする考えが「ガイア理論」です。
 プラトンのイデアをこの生命体と置き換えたとすれば、「個」と「全体」の新たな関係が見えてくるのではないでしょうか。
 
 『法律』第十巻の冒頭(884B)で、人々(とくに若者)が「神(聖なるもの)θεός」を軽んじる風潮が顕著であることを「アテナイの客人」は嘆き、①聖なるものの存在を信じない人たち②聖なるものが存在したとしても、それは人間のことを少しも配慮しない、と考える人たち③聖なるものがあったとしても、祈りや犠牲によって動かされる御しやすい存在である、の三つに分類される、とします。そして、人々の多くが、聖なるものの存在を、人間が作った人為的なものである、と考えている(889E)ことを嘆いています。

 プラトンは、「聖なるものはあらゆる徳を備えた善きものであり、万物に対して配慮することをその仕事としている」と断じます(900C-D)。そして、「万物はその全体が善き状態にあるように、それぞれの部分がそれにふさわしいように秩序づけられている」(903B)とし、「君のために世界がつくられているのではなく、世界のために君がつくられているのだ」(903C)と結論づけるのです
 (原文: ἕνεκα σοῦ γιγνομένη, σὺ δ᾽ἕνεκα ἐκείνου. 英訳:it not being generated for thy sake, but thou for its sake. )。ここで、「世界」と訳した単語の原文は、πᾶς(すべて)、ὅλοξ (全体)、παντός βίῳ (全生命) などの表現が散在し、翻訳文にあるような「宇宙全体」にあたる言葉はありません。英語では「the Whole」「the World」「the life of the World」などと使い分けられています。

 プラトンが使っている「神」(θεός)は、犠牲を奉げるシーンからすれば、ゼウスを中心とするオリンポスの神々をさしているように見えますが、全体の文脈からすると、むしろ現代の私たちが抱く「一者」としての神に近いと思います。それが、森羅万象を生成し秩序づけている「イデア」であり、生命体の個々の細胞が全体を支え、全体が個々の細胞を活かすガイア理論と接続していきます。

 さて、あなたは「イデア(ガイア)の声が聴こえますか」。
ご議論ください。