6、50歳統治論‐哲学をいつから学ぶべきか

 国家のリーダーになるために求められる学問のなかで、本曲である「哲学的問答法」を人生のどの時点で学ぶべきかについて、それは50歳からである、との考えが前回の後半に示されていました。その理由は、若いうちに哲学的問答法を学ぶと、中途半端な理解から、大人世代をやりこめることに夢中になるものたちが出て、社会の不安定要因になる、ということでした。若いうちは、しっかりと前奏曲である数学、幾何学、天文学について学んで行き、深い経験の裏付けと理性的判断が可能となる50代にはいってから、哲学的問答法は学ぶべきであることが、主張されます。
 
 『国家』においては、哲学を早いうちから学ばせるのは好ましくない、との考え方が示されているように見えます。さて、どうなのでしょうか。今回は、高校教育で哲学が正式な科目として取り上げられているフランスの哲学事情を材料に、プラトンの考え方を検証していきたいと考えています。フランスは「哲学カフェ」の発祥地であり、映画『ちいさな哲学者たち』(2011より公開。配給ファントム・フィルム)で話題になったように、小さい時からの哲学的思考を大事にする風土をもっています。その『ちいさな哲学者たち』の公式ホームページは、次のような紹介(introduction)で始まります。

 フランスのとある幼稚園で世界初の大きな試みが始まった。2007年、パリ近郊のZEP(教育優先地区)にあるジャック・プレヴェール幼稚園。そこでは、3歳からの2年間の幼稚園生活で、哲学の授業を設けるという世界的に見ても画期的な取り組みが行われていた。 幼児クラスを受け持つパスカリーヌ先生は、月に数回、ろうそくに火を灯し、子どもたちを集める。みんなで輪になって座り、子どもたちは生き生きと、屈託なく、時におかしく、そして時に残酷な発言をもって色々なテーマについて考える。

 「愛ってなに?」、「自由ってどういうこと?」、「大人はなんでもできるの?」…。時には睡魔に襲われつつも、たくさん考え、たくさん話し合っていくうちに湧いてくる“言葉たち”。そして授業を通して、お互いの言葉に刺激を受け、他人の話に耳を傾けること、そして意見は違っても、自分たちの力で考える力を身につけてゆく。男女関係や、貧富の差、人種の問題などフランスならではの社会的テーマを語りあう子どもたち。試行錯誤しながらも、この画期的な取り組みを行う教師。そして、子どもたちとともに成長する家庭。

 そのすべてを通して、「人生を豊かに生きる力」、「子どもの無限の可能性」の大切さにあらためて気づかされる。いま日本の教育現場でも議論の対象になっている“考える力”とは。子どもたちに本当に必要なものとは何なのか? 新たな教育の試みによる、子どもたちの変化、成長、可能性、そして未来の教育を見守るドキュメンタリー…

http://www.phantom-film.jp/library/site/tetsugaku-movie/index.html

 フランスでは、大学進学希望者はバカロレア(大学入学資格試験)を受ける必要があり、第一日の午前中に哲学の試験が行われます。例題「仕事は人間にとって必要を満たす手段に過ぎないか」と、その模範解答を資料として配布します。「なぜ大人はお仕事するの?」と子どもに聞かれているつもりで、皆さんの模範解答を是非とも作ってみてください。