6、AI君、君は類人猿ボノボに勝てるかな?

 長い進化の歴史の中で、ヒトとチンパンジーが別れたのは600万年前に過ぎません。人間とチンパンジーなどの類人猿とのDNAの差は、わずか1.2%からせいぜい4%しか違わないと言われています。フランスの女性哲学者のエリザベット・ド・フォントネはその著書『動物は心があるの?人間と動物はどう違うの?』(「10代の哲学さんぽ」4、岩崎書店)のなかで、動物を意味するアニマル(animal)は、ラテン語の「魂をもつ存在」のアニマ(anima)から来ていることを示し、動物が魂のない「機械」だとしたデカルトの考えに異議申し立てをしています。

 実際、アフリカに生息する類人猿ボノボ(ピグミーチンパンジーとも呼ばれる)は近年の研究で、1,000語以上の言葉の意味を理解し、人間の話すことに反応して、行動に移せることがわかってきました。ご覧いただくのは、アメリカ・ジョージア州立大学言語研究センターが「カンジ」と名づけたボノボを、赤ちゃんのころから育てながら、言葉を教えていった成果を示すビデオです。カンジくんは、ここの研究者スー博士と、まるで人間並みのコミュニケーションをしていると思いませんか。

 彼女の言葉に応えて、料理までしてしまうカンジくん。指示に従って、ライターで火をつけることもできます。言葉を覚えさせられていない妹に対して、スー博士の指示を、身振りで教えることまでできるのです。研究員の顔色や動作に反応しているのではなく、言葉そのものを理解して行動をしていることを確かめるために、顔を隠して指示する実験も興味ぶかいですが、電話で話しかける実験は凄いの一言です。
 
「これからお土産をもっていくわね。欲しいものを選んでおいて頂戴」と、研究員が電話で話しかけ、しばらくしてカンジの前に姿を現わします。するとカンジは、事前に欲しいとボードで答えていたプレゼントがボールであることを憶えていて、待っていたのです。

 前回、「理性」の意味はギリシア語の「ロゴス」に由来し、「分ける」ことから「分かる」の意味を持っていることを紹介しました。「言葉」によって物事を「分け」ている人間の方法を、カンジ君はそれなりのレベルで習得できていることになるのです。

 京都大学の霊長類研究所でも、アイと名づけたメスのチンパンジーが、まるや四角でできた図形文字によってアルファベット26文字を覚え、物の名前や色、数を表現できるようになりました。茶色いスプーンを5本示すと、スプーンの記号とその色の記号、そして数の5表す記号を順番に選んでゆけます。

 でも、人間の子どもは片言を覚えると「おめめ、ふたつ」「おとうさん、かいしゃ、いく」といった2語、3語とつづけた文章をつくりますが、チンパンジーにはうまくできないそうです(松沢哲郎・藪内正幸『ことばをおぼえたチンパンジー』福音館書店、pp.26-36)。

 嬉しいときには歯をむき出しにして喜び、仲間を守るために研究員の前に立ちはだかって、「かばう」という優しい心を態度で表現するボノボのカンジ。「かなしい」とか「うれしい」といった感情を図形文字で表現する日がやがてくるかもしれませんね。

 AI君、いまの君はボノボの域に達していますか?