7、ダ・ヴィンチにとっての「数学」

 ダ・ヴィンチは「工学は数学的科学の楽園である。何となればここでは数学の果実が実るから」と言っています(『手記(下)』p.24)。あるいは「数学者ではないものには、わたしの原理は読めない」(同)とも言っています。

 ダ・ヴィンチの技術的確信は、すべて数学的な計算がその根拠になっているといっても過言ではありません。鳥の飛翔する秘密を嗅ぎわけるために、ダ・ヴィンチは鳥、こうもり、昆虫、あるいは魚類にいたるまで “飛ぶ動物”の詳細な観察を行って四巻の論文にまとめたそうですが(同書pp.186-218)、こうした観察の結果、得た結論は「鳥は数学的法則に従って活動する器械である」であり、その鳥の運動を身につけた人間用の「飛ぶ器械」を、製作することができる、との確信を、自信をもって語っています(p.210)。

 なぜかこのところ、数学関連本が大はやりで、公共図書館で借りようとすると、30人待ちも珍しくない人気図書『数学する身体』(森田真生著、新潮社)を始め、『博士の愛した数式』(小川洋子、新潮文庫)など、目白押しとも言える状況です。

 『数学する身体』には、「三鷹天命反転住宅」で荒川修作の話を聞いた筆者が、ダ・ヴィンチの話を興奮気味に語る荒川の情熱に「この日以来、すっかり荒川修作のファンになった」と、その様子を描いています。荒川は、水道の蛇口から水を勢いよく流しながら、「ダ・ヴィンチは自然をつくりなおしてやろうと考えた」と語り、「君たち、太陽が素晴らしいと思っているなら、なぜつくろうとしない。俺は百兆円あったら、太陽をつくる。…そしたらどうなる。…かわるぞぉ」と嬉しそうに話したそうです。

 さて、ピュタゴラスの影響を受けたプラトンは、宇宙と人間がともに数を原理とする存在であると考えていました。『国家(下)』(8巻、546A-546C)に登場する通称「プラトン数」1,296,000は、地球をめぐる八つの天体(太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星、恒星群)が同時に元の位置に戻る「大年」を指していると言います。

 1,296,000は、人間の最短な懐妊期間を意味している216によって、216×6,000と分解されます。216はさらに

① 216=3の3乗+4の3乗+5の3乗 ② 216=6の3乗
② 216=35×6+6

の性格をもちます。6=3×2は、最初の男性数「3」と最初の女性数「2」を結合したものなので、ピュタゴラス派によって「結婚数」と呼ばれました(同書訳注pp.407-414参照)。

 『博士の愛した数式』には、約数の和がその数に等しくなる「完全数」と約数の和が相手の数に一致する「友愛数」の二つが、物語を展開させるキーになっています。

完全数 6=1+2+3、28=1+2+4+7+14、496=1+2+4+8+16+31+62+124+248、8128=…
 
友愛数 220:1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
    284:142+71+4+2+1=220

 生物が数学で表現される法則によって動く「器械」であるとしたダ・ヴィンチの場合は、ロボット工学に通じる考え方ですが、数そのものの持つ神秘に思考を働かせるのも、ときには一興というものでしょう。