7、ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだー表と裏の秘密

 お配りしてあるトム・ストッパードの傑作『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(小川絵梨子訳、ハヤカワ演劇文庫)は、冒頭から二人の男の不思議な場面から入って行きます(pp.9-22)。

「…それぞれが大きな革の袋を持っており、その中にはコインが入っている。ギルデンスターンの袋は、ほぼ空。ローゼンクランツの袋は、ほぼ一杯。

 さて、それがどうしてかと言うと―二人はコインゲームで賭けをしている。ギルデンスターン(以下、ギル)が自分の袋からコインを取り出し、指で弾きあげて地面に落とす。ローゼンクランツ(以下、ロズ)が落ちたコインを見て、「表」と言い(その通りたまたま表が出たから)、落ちたコインを拾って自分の袋に入れる。これが繰り返されている。二人の様子を見ると、どうやらずいぶんと長い間これを繰り返しているらしい。

 ずっと「表」ばかり出るのもおかしな話だが、ロズは気にとめていない様子でー訝しんでいない。とは言え、友人から金をずっと巻き上げ続けていることに、少しばかりの罪悪感を感じている様子。このことは、ロズの性格をよく物語っている。
一方、ギルはこの奇妙な現象が非常になにか意味があるのではないか、と気になっているのだ。とは言え、それで動揺し浮き足立ったりはしない。このことは、ギルの性格をよく物語っている」

 こんな具合に、コイン投げを二人は延々と続け、なんと85回連続で表ばかり出てしまうことに、ギルが「怖くないのか」と、平気な顔をしているロズに怒ってコインを投げつけます。そしてそれも表。

 「これにはきっと何か意味がある。…前世で罪の贖いとして、負け続けている、という説。…神の介入、という説。…」とまあ、結局なんと90回も続けて表となって、ギルはたまらず、イライラと歩き回りながらロズに大声でこう語りかけるのです。

 「大前提、確率は自然な状況で機能する。小前提、しかし今確率が機能していない。酔って結論、我々はいま、自然じゃない、奇妙な、不可思議な状況にある。さて、これをテーマに議論せよ」(p.21)

 さてさて、この大前提と小前提から一つの結論を導き出す方法は、アリストテレスが見出した「三段論法」というやつです。最も、単純な例が「人間は動物である(大前提)。ソクラテスは人間である(小前提)。故に、ソクラテスも動物である」。

 表と裏の出る確率は半々(二分の一)なので、回数が増えるほど、1対1に限りなく近づいて行きます。逆に、連続して表の出る確率は、四分の一(二回)、八分の一(三回)と、2の累乗で低減して行きます。90回連続で表の出る確率はなんと2の90乗分の一。これは、10を27回かけた数、すなわち1兆×1兆×1,000分の1という、ほとんど無限大に等しい、ありえない数なのです。

 この意味するところは何なのか。皆さんそれぞれが、「大前提」と「小前提」を工夫して、このコインの表と裏の遊びが意味するところを導いてください。