7、ヴェローナ

 2012年11月30日

 この日の「しゃべり場モーツァルト」は、「押し合いへし合い、奪い合い」の小タイトルで、天才少年モーツァルトを一目見ようと演奏予定会場の教会などへ押しかけるヴェローナ市民たちの熱狂に嬉しい悲鳴をあげる様子や、地元の貴族、宗教関係者、名望家(富裕市民)らがモーツァルトたちを食事などに誘うための奪い合いを摩擦なく調整する苦労話を、父・レオポルトの手紙を通じて楽しみました。

 1770年1月7日のヴェローナ発モーツァルトの手紙は、父の追伸の形をとらない初めてのものです。ドイツ語とイタリア語が交互に飛出し、最後をフランス語で占める内容に、受講生一同感嘆しきりでした。

 地元でのオペラを見てのモーツァルトの感想は、その観察眼の鋭さがすでに伺えます。

「そういえば、歌手は何歳ぐらいまで現役として歌えるのだろう」という一人の話から、「一日練習しないと自分がわかり、二日練習しないと相手に知られ、三日練習しないと聴衆に知られてしまう」「音楽会で、ソプラノの出番の合間にあるとの人がそっとペットボトルを取り出して水を飲んでいた」などと話題が広がり、アマチュアの合唱団で歌っている一人が「スポーツ選手と同じで、歌手も必要な筋肉をいつも鍛えていなければならない」といった話を披露してくれました。
 

ジュリエット像

ヴェローナは、シャークスピアの「ロミオとジュリエット」で知られる世界遺産の街です(右は、ジュリエット邸にあるジュリエット像)。少年モーツァルトへの熱狂ぶりを振り返ってみましょう。
ヴェローナのモーツァルト
★資料:『クラヴィーアのためのアレグロ』k.72a
http://www.youtube.com/watch?v=349dd73pjCY&feature=endscreen
モーツァルトの肖像画に描かれている譜面台の楽譜の曲。画は、サヴエーリオ・ダッラ・ローザ作の油絵)

 「ぼくたちはこのところずっとオペラを聴いています。たとえば『イル・ルッジェーロ」という題のオペラです。…まるで悪魔みたいに調子っぱずれです …。とても美しい声量のある声をしていますが、もう歳です。彼は55歳です。…いちばん美しい声ですが、舞台ではまったく囁くようなので、なにも聞こえません。…二階のぼくらの座敷では、みんな仮面をつけています。…しかも、だれも決して名前では呼ばないで、いつも[以下イタリア語]「これはようこそ、仮面の奥さま」と呼びかけます。「こりゃ驚いた」[以下ドイツ語]なんて愉快なことでしょう」(ヴェローナ 1770年1月7日 ザルツブルグの姉に)
円形劇場 
ヴェローナの円形劇場。夜間のオペラが有名です。プラシド・ドミンゴの素晴らしい声をお楽しみ下さい(歌劇『ドン・ジョヴァンニ』から「お手をどうぞ」)
http://www.youtube.com/watch?v=tVNqNLeyExA

 1月5日には、アッカデーミア・フィラルモニカで演奏会が開かれ、その様子が『マントヴァ新聞』に報告されています。「当市が報告を欠かすことができないのは、まだ十三歳に達しないドイツの少年アマーデオ・ヴォルファンゴ・モーツァルト氏が音楽で示した驚くべき真価である。この少年は…市の代表者および多数参集した貴顕紳士淑女を前にして、前述の、芸術に熟達したすばらしい証拠を披露したため、聴衆を唖然とさせたものである。…」。
 二日後の1月7日に近くの教会で演奏したときなどは「教会に着いたときには、ものすごい人だかりで、馬車から下りる場所はほとんどありませんでした。あまりの押しあいへしあいだったので、私たちは修道院を抜けていかざるをえませんでした。…演奏が終わると騒ぎはもっと大きくなりました。だれもが小ちゃなオルガン奏者を見ようとしたからです」(1770年1月7日 レオポルトからザルツブルグの妻あての手紙)だったといいます。
 一人の富裕な商人が、モーツァルトの肖像画を描かせました。モーツァルトの容貌を良く表しているとされる、サヴエーリオ・ダッラ・ローザ作の油絵です。