7、判断力は技術としての自然という考え方を導き出す

自然が織りなすアートの「暗号」について話しましょう。

判断力は技術としての自然という考え方を導き出す
「判断力から根源的に発生してこの能力に独自の概念は、技術(Kunst=art アート)としての自然という概念である。換言すれば、特殊的自然法則に関する自然の技巧(Technik=technique テクニック)という概念にほかならない」
(p.249)

★サブ・テクスト:映像・中谷宇吉郎「雪の結晶の人工的形成」 http://www.youtube.com/watch?v=1mri_ZqaBac
        :中谷宇吉郎『雪』(岩波文庫)
参考:イアン・スチュアート『自然界の秘められたデザイン』(河出書房新社)ケン・リブレクト『雪の結晶』(河出書房新社)

「雪が人工で出来ないものだろうか。それは、四、五年前までは私にとって全くの夢であった。そして私ばかりではなく、各国のこの方面の学者たちの中でも真面目に雪を作ろうなどと思っていた人はなかったようである。私は初め、単に天然の雪華を顕微鏡写真に撮ることにとりかかった。…」(中谷宇吉郎『雪』p.125)こうして中谷宇吉郎は、いままで誰も試みたことのない「雪を人工的に作る」という壮大な実験へと踏み出していく。それは、「自然の技巧」の秘密を解き明かすことであり、最終的にはその技巧を自然から盗み、人間のものにしてしまうことである。
中谷は、結晶の性質を同じくする霜の結晶から初め、やがて極細の兎の腹毛をある条件下に置くと、雪の結晶ができることを発見する。やがて、水蒸気が凝縮してできる氷の微粒子を一つ一つ腹毛に付着させ、空から降ってくる雪が成長して地上に落下する途中の状態(結晶初期)を再現するまでになった。これは天空における現象なので「本来は窺い知ることのできない」(同p.154)自然の技巧の一つである。その後、室温、水温、装置などを色々変え、「粉雪」に到る実に700種の雪の結晶を実験室内で作り上げることに成功した。
 中谷は、寺田寅彦が浅間山から噴出した火山弾を目にしながら「一つ一つが貴重なロゼッタストーンである。…悲しいことにわれわれはまだ、そのヒエログリフ(聖文字)を読みほごす知能が恵まれていない」と述べたことを引用(同p.161)しながら次のように締めくくっている。「雪の結晶は、天から送られた手紙である。そして、その中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているのである。その暗号を読みとく仕事が即ち人工雪の研究であるということも出来るのである」(同p.162)
 天から降ってくる「暗号」あるいは「手紙」について、すでにケプラーが驚異の目で見ていたことを書いておくことにしよう。「雪が降りはじめると、最初に見られる雪片がかならず六角の小さな星形なのには明確な理由があるはずだ。これが偶然だというなら、どうして五角形や七角形で落ちてこないのだろう。突然の風で吹きよせられて、もつれるように塊で落ちてきた場合は別として、広い範囲に分散して降る場合は決まって六角形だ。なぜだろうか」(イアン・スチュアート『自然界の秘められたデザイン』p.18)