7、民主制―“自由で幸せ”の内実を問う
私たちの『国家』読解は、第八巻へと入っていきます。一~一六(543A- 569C, p186-p.265)までのこの箇所は、以前に触れられたことのある五つの国制を再びとりあげ、それが私たちの五つの魂のあり方と対応している、とされて語られます。そして、優秀者支配制⇒名誉支配制⇒寡頭制⇒民主制⇒僭主独裁制の流れで、国制が変容していく理由が、魂のあり方から説明されていきます。
この制度変転を語るうえで、プラトンがある種の形而上学的原理として提示しているのが、「いかなる組織も永劫の時間に渡って存続することはなく、やがては解体しなければならない」ということです。
それぞれの国制と、対応する魂の性質をあげておきましょう。
優秀者支配制 真の哲学者が支配する国制。いわば、理想的な哲人政治が行われる国制。
名誉支配制 出生の周期に合わずに生まれてくる者たちは、その任にふさわしいものではなくなってくる。気概の性格が勝るようになり、勝利と名誉を求める国制となる。彼らには徳を守る力となるロゴスに欠けている。
寡頭制 金持ちが支配し、貧乏人は支配にあずかれない国制。富と金持ちが尊重されるようになるにつれ、徳やすぐれたひとたちは尊重されなくなる。名誉を愛した人たちも、金儲けや金銭を愛するようになり、金持ちを支配の座につけるようになり、支配者を財産の多寡によって決めるような法律を制定する。こうして、寡頭制が誕生する。この国制は、けちで金儲けに熱心な人間に対応される。
民主制 できるだけ金持ちになることが善であるとされる寡頭制社会の生き方が、民主制を生む原動力となる。「日陰で育ち贅肉をたくさんつけた金持ち」の脆弱さを見て取った貧乏人が内乱を誘発し、「ある者は殺し、あるものは追放し、残りの人々を平等に国制と支配に参与させるようになったとき、民主制が生まれるのだ」(557A, 226頁)とされる。そして、「たいていの場合、その国における役職は籤で決められることになる」(同)
民主制の人間は、民主制の性格をそのままもっている(557B-557E, pp.227-228)とされ、ここから最後の国制である僭主独裁制が必然的に出てくる、というのです。民主制の人間は、おおむね次のようなタイプとして描かれています。
1、 国家は自由が支配していて、言論の自由が行きわたり、何でも思いどおりのことを行うことが放任されている。
2、 自分の気に入る、自分なりの生活を設計できるので、どの国よりも多種多様な人間が生まれてくる。
3、 さまざまな国制のなかでも、多彩な色取りの着物を見るように、最も美しい国制であると判定する人も多いだろう。
4、 支配者にも被支配者にもならねばならないという強制はなく、誰かが戦っていても戦う必要もなく、平和を欲しないならばそのように過ごせ、その気になれば裁判でも支配することでもできる。
プラトンは、この民主制に生きる人間たちが感じている「自由で幸福な生活」の内実を、皮肉を込めて暴き出して行きます(559D-562A)。さて、皆さんのお考えを聞きましょう。