8、生命のオートポイエーシス 自己組織化と相転移

 オートポイエーシス(自己創出)とは、生命が生命を生む、つまり、自己と同じシステムを形成するシステムについて、チリの生物学者マトゥラーナとバレーラが命名したものです。これは、古くはすでにアリストテレスが見出していた「人間は人間から(生まれる)」(『形而上学』1049b20)言明に遡ることができるでしょう。

 生命体に特有に見出されるこの現象は、生命体の特徴である「複製(自己のコピー)」と「増殖」(自己の生産)「分化」(自己の変容)となって現れます。複製は、単細胞生物に見られるもっとも単純な形の自己創出であり、「増殖」は赤血球や毛髪などに見られるように、幹細胞によって日々同じ機能をもった細胞が生産される自己創出です。

 「分化」は、ある意味ではもっとも高等な自己創出と言えるでしょう。なぜなら、機能を別にした幾種類もの細胞へと自己が変容し、それらが合体して多細胞生物という新しい形態の「自己」が生まれてくるからです。多細胞生物は、個別の自己創出能力をもった細胞と、それらが集まった全体の自己創出能力をともに備えた二層のオートポイエーシス体と言えるでしょう。

 動物は移動という力を獲得した代わりに、全体としての日常的な「分化・再生能」(形成力)が極小化し、ほとんどどこからでも全体が再生する植物は、代わりに移動の能力を失った、と言えるかもしれません。ノーベル賞の山中伸弥教授が世界で始めて作り出したiPS細胞(人工多能性幹細胞induced pluripotent stem cell)は、分化を終えた動物細胞でも、分化・再生の能力を持たせることができることを示したものです。

 自己創出するシステムが現出するためには、あるとき、そのようなシステムが自ずから形成されたのだと、考えるしかありません。システムの自己形成を、自己組織化、と呼びます。赤道近くの熱水によって温められた空気が上昇し、地球の自転によるコリオリ力によって右の渦巻へと発達していく台風は典型的な自己組織化の現象、(散逸構造)です。台風は、大洋から供給される熱水のエネルギーがなくなると消滅へと向かいます。

 しかし、生命体は、自らエネルギーを取り込んで、自己組織化した形態を半永久に保つことができる、まったく新しい自己組織体です。単細胞生物は、単純な複製により永遠に自己を存続させ、多細胞生物は「交配」によって自己を再生産する方法を編み出しました。多細胞生物は形態を非連続に変容させる相転移「進化」を繰り返して、「人間」のような、自己が自己を考える、「心の自己創出」を行う生命体へと分化して来たのです。

 アメリカ大統領選は、有権者の投票数では、クリントンが59,814,018票(50.08%)でトランプ59,611,678票(49.925)を上回っていましたが、選挙人獲得ではトランプが306票とクリントンの232票を大幅に上回る圧勝となりました。

 
 この結果を、前大阪市長の橋本徹が「本当の敗者はクリントン氏ではなく自称インテリだ」(下記 ツイッター2016.11.16)と揶揄したのは、なかなか興味深いではありませんか。

橋下徹

  [今、読まれています!】橋下徹NY現地報告「『トランプ大統領』誕生! 本当の敗者はクリントン氏ではなく自称インテリだ!」 http://president.jp/articles/-/20657 … この選挙結果で自称インテリを中心とする政治エスタブリッシュは、政治感覚がおかしかったと認めなければならない。

 なぜならトランプ現象は、アメリカ社会に「相転移」が起き、新しい「生命体」とでも言える存在が出現したことを示唆しているからです。それはいかなる「自己創出」なのか、皆さんとの論議の結果は次回
new9、法と社会のオートポイエーシス
をご覧ください。